<第11話> みなみのせいざ  〜星座と世界時間を当てる教材ゲーム〜

「みなみのせいざという新しい教材ゲームに、高校生たちが挑戦してくれました。
どうもありがとう。

私にとって"みなみのせいざ"の発表は、平和台小学校教師として最後の教材発表になります。
今年度を最後に教師を辞め、実家のお寺の仕事をしようと思っているからです。
しかし、教材作家としての活動は、今後も続けたいと思っています。


"教材作家"は、自分が興味を持った学問の中から、面白いと思うことを材料として集め、教材として組み立てます。
そして楽しい使い方をいろいろ考えます。

その教材は、一般人でも作れる簡単なものでなければならないと思います。
たとえばロビンソン・クルーソーのように、無人島に一人漂着したときでさえも、簡単に作れるもの。
地球上のおおよその現在位置を知るための教材。ただし、日本時間を示す腕時計が動いていればの話ですが・・・

そして、教材作家の教材は、生活の中に溶け込むほど実用的でなければならないと、私は思います。
知的な豊かさだけでなく、生活面でも便利に使える、肩の凝らない、楽しいもの。

楽しい使い方をいろいろと考えているうちに、教材が生命を得たようにどんどん成長していくように見えるのもまた楽しいものです。

教材作家は、こうしてできあがった教材を、その仕組みや、使い方を解説する講義として発表します。

学問を応用した生活のアイデアを、みんなに使える形に組み立てること。
そして生活を楽しくし、学問の面白さを伝えること。

私は、今後もこの活動を続けて行きたいと思います。


退職前に星座を憶えるための教材をつくろうと思ったのは、私が担任をしております平和台小学校の生徒たちとの約束だったからです。
まず私は、多くの星座名に曲をつけて、"星座のうた"を作ってみました。
それだけでなく、何月の何時頃かをいって、その時刻に南の空にある星座の名前を当てるゲームにしたらどうだろう。
"七段"のように楽しめるだろう、子供たちも喜ぶだろうと思いました。

こうして作りはじめた教材ゲーム"みなみのせいざ"は、教材の完成度を高めようと私なりに考えているうちに、さらに成長したのです。
いろんな文献を調べたり、先生方や、他の教材作家と話をしているうちに、新しい機能が加わっていきました。
そして世界の主要都市の現在時間がわかる世界時計の機能も持つようになったのです。

星座には興味ないよとおっしゃる方も、"みなみのせいざ"のワールドタイム機能だけは、憶えておかれると便利だと思います。


みなみのせいざの問題のレベルは、難易度に応じて、初級、中級、上級としてみました。
初級は、準々決勝、中級は準決勝、上級は決勝のレベルとして、今日の講義を進めます。
まずは、初級のゲーム方法です。小学生の子供たちのために作ったゲームです。
こちらの表をご覧ください。


これは"時計ドーム"と呼んでいる表です。時計の文字盤と同じように円を12等分してあります。
数字は、月を意味しています。1月から12月までです。
それぞれ20日頃をあらわしています。

一番上に3月が来ています。3月20日頃の春分点です。ここに太陽が来る日が春分の日ですね。
右の6月は、6月20日頃、昼が最も長い夏至です。
下の9月は9月20日頃の秋分点を表し、左の12月は12月20日頃、昼が最も短い冬至です。

市販されている星座早見表を分解してみると、同じ構造の円盤があらわれます。
星座の絵の周囲に、月が書いてあります。しかし使い方が異なります。
市販されている星座早見は、この円盤が動くでしょう?星空の絵を動かして、現在の星座を楕円形の窓に合わせる仕組みです。
しかしみなみのせいざでは、この円盤は固定します。向かって上側に必ず春分点が来るようにします。
天動式でなく、地動式です。
みなみのせいざで使う時計ドームには、月ごとに星座の名前が書いてあります。
この数字と星座名は、月ごとの太陽の位置、つまり太陽が地球からどの星座の方向にあるかを示しています。


みなみのせいざを理解するために、山に囲まれたところにある遊園地を思い浮かべてください。
山は、1の山、2の山から12の山まで名前をつけてみます。山の数は12。遊園地を丸く取り囲んでいます。
遊園地の真ん中には白い大きなお城があって、その周辺にはたくさんの楽しい遊具や乗り物があります。
その周囲を、モノレールが一周しているとしましょう。

私たちはいま、モノレールに乗ってお城を見ています。お城の後ろには、1の山が見えます。
モノレールが右回り、空を見上げたときの時計回りに動くと、お城の後ろには2の山が見るようになります。
お城と山が動かなくても、モノレールの動きによってそのように見えるのですね。
こうしてモノレールが遊園地を1周する間に、お城は、1の山から12の山までを順に動いているように見えます。
モノレールは地球、お城は太陽、12の山々は黄道12星座をあらわしています。

このモノレール地球号には、特殊な仕掛けがあります。
遊園地のコーヒーカップと同じように、それ自身がぐるぐる回るのです。
コーヒーカップのように回りながら、太陽というお城のまわりを大きく一周するのです。
それぞれ同じ右回り、北極星に向かって時計回りです。
乗客はコーヒーカップのように一回転する間に、12の山々を順番に見ます。
乗客からお城が見えているときは、昼です。
お城が太陽のように輝くと、その光のために、お城の後ろにある山々は見えなくなります。
乗客からお城が見えていないときは、夜です。
遊園地の内側でなく外側を向いている時間です。
このとき、お城と反対側にある山々があざやかに見えてきます。

東西南北を確認しましょう。
コーヒーカップの回転する方向は、東です。北半球では、東の方角は、南の正面に向かって左側です。
左側から、お城つまり太陽が見えてきます。
太陽が正面に来たとき、その方角は南です。正面は南をあらわします。
お城は右側に行って、見えなくなります。右側である西の空に沈んだのです。
太陽が正面に来て、一回転後また正面に来るまでは、24時間ですね。

地球一回転の4分のずれについて、ここで確認しておきましょう。
お城である太陽を正面に見た乗客が、コーヒーカップのようにちょうど一回転したとき、その正面に太陽はありません。
とても大切なことですね。一回転したばかりの私たちが、正面に太陽を見るためには、もう少し回る必要があります。
太陽の位置が少し左にずれたからです。
これは地球自体が、コーヒーカップのように一回転する間に、モノレールのように右へ移動したからです。
地球1周は、24時間ではなく23時間56分ですね。
24時間は太陽が正面に来た時から、また正面に来るまでにかかった時間で、1周した時間プラス4分。
半年を180日として4分×180=4×2×90=720分=12時間、半年で12時間ずれますね。

もし4分のずれを計算せず、太陽が正面にきた正午からはじめて、単純にコーヒーカップ一回転を24時間とするとどうなるでしょうか。
モノレールが半年180日かけてお城の裏側へ行ったとき、正午はお城とは反対側を向いて真っ暗です。
午前0時と同じ状況になっています。
それでは不都合なので、お城である太陽を正面に見た時間を基準にして、1周に4分を加えているのですね。
こうして24時間ごとに、太陽を正面に見ることができるようになります。

■時計ドームについて

先ほど、みなみのせいざは、天動式でなく、地動式星座早見の構造をしているというお話をしました。
つまり星座の絵は動かさず、向かって上側を必ず春分点にするのです。
みなみのせいざで、地球と太陽と月そして星座との位置関係をはっきりさせるための工夫についてご説明しましょう。
それは"ドーム"という考え方です。

先ほどの遊園地と周囲にある12の山々、それらがすべて大きなドーム式天井をもつ巨大な構造物の中にあるとします。
12の山々は、12の星座となってドームの天井を飾り、遊園地は広い大地に変わりました。

想像してみてください。
いまあなたは、この巨大なドームの中に入ってきました。
そしてドームの真ん中へ行き、そこに仰向けになって寝てみてください。

足を伸ばし、両手を広げます。
頭の方向は、あなたがいま入ってきたドームの入り口です。
この方向を、ホーム(H)と名付けましょう。
そしてあなたが右手を伸ばした方向を、ライト(R)。
足を伸ばした方向を、センター(C)。
左手を伸ばした方向を、レフト(L)と名付けましょう。
野球のドームと違い、観客席はありません。

ドームの照明を消します。すると無数の星々がドームの天井にあらわれます。

足もとのセンター方向には、春の星座。
左手のレフト方向には、夏の星座。
頭の先のホーム方向には、秋の星座。
右手のライト方向には、冬の星座が広がっています。
真ん中にあるのは、北極星です。

コンパスの形をした人形がやってきて、真ん中の北極星を軸とした大きな赤い円を書きました。
天の赤道です。
地球の赤道上の国々から見上げると、この天の赤道上の星々が真上に見えます。

さあ、立ち上がってみましょう。
後ろがホーム側です。春分点があるうお座、その左がおひつじ座です。
その左には枕草子で"星はすばる"とうたわれたプレアデス星団が見えて、おうし、ふたご、オリオン座。
おおいぬ、こいぬ座のシリウス、プロキオン、とても明るい冬の星座がライト方向に広がっています。
センターへ目を移していくと、かに、しし、おとめ座、その上にかんむり、うしかい座。
おおぐま座の北斗七星や、日本で"ほかけ星"と呼ばれたからす座もあざやかな春の星座です。
秋分点があるセンターのおとめ座の左を見ていくと、てんびん、さそり、いて座という夏の星座と天の川が見えてきます。
レフトのいて座の天頂付近からは、こと、わし、白鳥座の、ベガ、アルタイル、デネブによる大きな三角形が天の川にかかっています。
レフトからホームへは、やぎ、みずがめ座という秋の星座が始まって、春分点のあるうお座に戻ります。

秋の星座が広がるホームのうお座の位置に春分点があり、春の星座が広がるセンターのおとめ座の位置に秋分点があります。
天の赤道上の春分点、秋分点の位置を軸として、もう一つの黄色い大きな円が現れました。
黄色い円は、右手のライト方向ふたご座付近で高い位置にあり、ライトからセンターにかけて次第に下がって行きます。
センターのおとめ座付近で天の赤道と交差した黄色い円は、左手のレフト方向の、いて座付近で最も低くなります。
そしてまた、レフトからホームにかけて次第に高くなり、ホームのうお座付近で天の赤道と交差すると、ライトの最高点まで昇り続けます。
この黄色い円は、太陽の通り道、黄道(こうどう)をあらわしています。
そしてこの黄道に沿って、先ほどの12の山々が姿を変えた黄道12星座が並んでいます。

星座の数は88星座、そのうち私は50星座を選んで"星座のうた"をつくりました。
"みなみのせいざ"と"星座のうた"は教材セットとして、時計ドームの中の黄道12星座を中心とする50星座を憶えるためにご活用いただければと思います。
12星座以外を当てるのは、上級のゲームです。もちろん"星座のうた"の50星座以外でもOKです。
星座の本や、星座早見で調べて、その位置や形、構成する星の名前などを憶えておきます。



■時間の輪について(その1)

これはみなみのせいざの教材の一部で、時間の輪と呼んでいるものです。太陽・月の輪ともいいます。
太陽のマークがついている場所は、太陽が正面に来たとき、つまり正午をあらわしています。
反対は満月のマークです。満月が正面に来る午前0時をあらわします。満月の左右にある2つの三角マークは、午前0時の日付変更を示しています。
太陽から満月へ引かれた矢印は、太陽つまり正午の反対側に午前0時があることを示します。
午後10時の位置は、午前0時の位置から1目盛戻った位置です。午前4時は、午前0時の位置から目盛を2つ進めた位置です。

月は、地球がコーヒーカップのように約30回転する間に、地球のまわりを一周します。
月も北極星に向かって右回りです。
正午に太陽を見た人にとって、コーヒーカップが4分の1回転した午後6時に、正面に月があったら、それは上弦の月。
コーヒーカップが半回転した午前0時に、正面に月があったら、それは満月。
コーヒーカップが4分の3回転した午前6時に、正面に月があったら、それは下弦の月ですね。
時間の輪でPMと書いてある半月は、午後6時頃南の正面に来る上弦の月、AMは午前6時頃南の正面に来る下弦の月をあらわしています。

月の形が変わる様子は、映画館で周囲の友達の顔を見ればよくわかります。
映画の上映中は、場内が暗くなっていますね。
映像の光は、太陽の光のように、観客の顔を照らしています。
みんな熱心に映画を観ているところです。

左の席に座っている友達の肩をたたいてみましょう。
友達がこちらを見ます。向かって右側の顔の部分は、映画の光が当たっているので見えますが、左側は真っ暗です。
上弦の月です。

後ろの席に座っている友達を振り返って見てみましょう。
友達が熱心に映画を観ています。顔の部分は左右ともはっきり見えます。
満月です。

右の席に座っている友達の肩をたたいてみましょう。
友達がこちらを見ます。向かって左側の顔の部分は、映画の光が当たっているので見えますが、右側は真っ暗です。
下弦の月です。

ついでに前の席に座っている友達の肩をたたいてみましょう。
友達がこちらを振り返ります。顔の部分は左右とも真っ暗で見えません。
これを新月といいます。

これらの実験をするときは、友達に嫌われないように注意してくださいね。

この太陽と月の関係を示しているのが、時間の輪なのです。

映画館での前後左右と、時間の輪とは左右が逆になっていると思われる方はいらっしゃいませんか?
一致していることを確かめてみましょう。
太陽がホームの位置にあり、あなたはホームを正面に向いて立っています。左を見るとライト方向、後ろを見るとセンター方向です。ホームを正面に右を見るとレフト方向です。
地球はホームからライト、センター、レフトと左の方向に自転します。自転しながらそれぞれの位置にある星座を順に正面に見ていきます。
地球の公転も同じ左の方向なので、太陽の位置も、左側に動きます。月も同じ左方向です。
これはドームの中央でもう一度仰向けに寝て北極星を正面に見たときの時計回り、右回りと一致していることを確かめてください。

時計ドームと時間の輪の説明が終わったところで、初級の準々決勝をはじめましょう。
初級ではこの2つを使います。
ただし、ゲームを行うプレーヤーが見ることができるのは、時計ドームだけです。

ベストエイトの8人が、4枚の時計ドームの前に二人ずつ向かい合って立ちました。
読み手が、1から12までのカード48枚を1枚引いて、その数字を月とします。
次に2枚目のカードを引いてその数字を2倍し、時刻とします。

カードを引いてみましょう。
観客席と読み手から見える教室右側のパネルには、審判が立っています。
時計ドームに重ねた時間の輪を回し、正解を指で示します。

読み手の人にカードを引いてもらいましょう。1枚目は1が出ました。
読み手は、"みなみのせいざ、1月の空"といいます。


時計ドームに重ねた時間の輪を回し、1月に太陽の位置を合わせてみましょう。
これは1月の空です。1月20日頃ですね。太陽はホーム寄りのレフトの位置にあります。

2枚目のカードを引きます。10が出ました。
時刻の場合は、出た数字を2倍します。20時でも、午後8時と言っても結構です。

午後8時は、時計ドームの2時の位置が正面つまり南です。ホーム寄りのライト方向が南に来ます。
みなみのせいざは、おうし座ですね。
おうし座を早く手で押さえた人が勝ちです。

プレーヤーには時計ドームのみで時間の輪は見えません。
時間の輪を想定して、頭の中で動かしながら、みなみのせいざを当てていきます。

それでは、みなみのせいざ10回戦を始めてください

「みなみのせいざ、3月の空、午前4時」 読み手がいう。
プレーヤーたちが、時計ドームの星座名を押さえる。


「さそり座です」パネルの正解を確認して、読み手がいう。

「みなみのせいざ、6月の空、18時」


「おとめ座です」

「みなみのせいざ、11月の空、午後4時」


「やぎ座です」

………


「さてベストフォーが決まりました。
時計ドームと時間の輪について、使い方はご理解いただけましたでしょうか。
慣れてくると、腕時計の文字盤を見ながら"みなみのせいざ"を当てることができるようになります。
そうすると、いま空にある星がどの星座のものか、または惑星か、見当が付きやすくなります。

何月に惑星がどの星座にあるかについては、天文年鑑(誠文堂新光社)などの本で調べておく必要があります。
来年2008年は、木星はいて座、土星はしし座にあります。
金星は最初は太陽の西にあるので明けの明星、6月9日に太陽の裏側に来る外合となり、以後は太陽の東にあるので宵の明星となります」


「さて次は、 "みなみのせいざ"で世界時間(ワールドタイム)を当てる方法についてご説明しましょう」

「まず、時間の輪の太陽のマークを春分点で固定します。

一番上に来るのは太陽と向かい合う正午です。すると一番下に来るのは、満月と向かい合う午前0時になります。
この午前0時の位置に、三角のマークが2つ付いていますね。これは日付変更を表しています。
太陽の位置を3月の春分点で固定するのは、そうすると日付変更の位置が一番下に来て日付変更がわかりやすいからです。
右側の三角マークが昨日を示すとき、左側の三角マークは、次の日である今日を示しています。

もう一つの輪を用意します。"地図の輪"です。


円は地球を意味し、これを12等分します。
自分が住む国を基準として、一番上の0時の位置にします。
これは、世界地図上の経度ではなく、ワールドタイム上の位置をあらわしています。
この地図の輪は時計ドームや時間の輪に重ねるので、やはり北極星に向かって右回りに考えます。

世界の国や都市の位置を確認しましょう。
日本や韓国が0時のとき、ニューヨークやワシントンの位置は5時です。
フランス、ドイツ、イタリアなどのヨーロッパ諸国は8時、アラブ諸国やモスクワは9時の位置です。
地球を12等分した1目盛は、時間にすると2時間です。

世界標準時(GMT)は、イギリスのロンドンと同じ時間で、パリやベルリン、ローマより1時間早いですね。
地図の輪では、7時半の位置になります。

そしてロンドンから見て、地球の反対側に日付変更線があります。この位置に日付変更線と回転方向を示す三角マークを付けます。
これは、東京、ソウルを0時としたとき1時半の位置で、ニュージーランドがあります。

ちなみに0時半はグアムやオーストラリア東部、2時半はハワイ、3時半はシアトル、サンフランシスコ、ロサンゼルスなどです。
11時半は中国、シンガポール、台湾。11時はタイやベトナム。インドは少し特殊で10時15分の位置です。
8時はフランス、ドイツ、9時はモスクワといいましたが、その中間の8時半の位置は、ギリシア、エジプト、イスラエルなどです。
日本とは地球の反対側にあたる6時の位置に来るのは、ブラジル東部やアルゼンチンです。

ここで、三角マークに注意してみましょう。
三角マークは時間の輪の午前0時の位置に2つ、地図の輪の世界標準時GMTの反対側(ニュージーランドの位置)に1つ、合計3つあります。
時間の輪に地図の輪を重ねたとき、午前0時の右側は三角マークが向かい合い、左側は同じ方向を向いていますね。
三角マークが向かい合っている区域は、同じ方向を向いている区域より日付は1日遅れていることに注意してください。
こうしてできた地図の輪を、時間の輪に重ねることによって、世界時間とその日付を調べることができるのです。


たとえばいま、ニューヨークの時間を調べたいとしましょう。
ニューヨークは5時の位置でした。
0時の位置である東京から、地球の裏側である6時の位置まで、6目盛を移動します。
それから1目盛だけ位置を戻してみましょう。5時の位置に来ましたね。

早速やってみましょう。
東京は午前10時です。ニューヨークは何時ですか?

時間の輪の11時の位置が、午前10時を示しています。東京は11時の位置にあります。
ニューヨークは東京から見ると、5時の位置です。
まず11時から地球の裏側まで6目盛を移動し、1目盛だけ位置を戻します。

4時の位置に来ました。4時の位置は、時間の輪では午後8時です。
ニューヨークは、午後8時であることがわかりました。
日付を確認しましょう。

地図の輪の日付変更線は0時半の位置です。
ここにある三角マークと、時間の輪の午前0時にある反対向きの三角マークが向かい合う範囲は日付は前日でしたね。
ニューヨークは三角マークが向かい合う範囲にあり日付変更の午前0時を過ぎていません。
ニューヨークは昨日の午後8時。それが答えです。

つぎに、フランスやドイツ、イタリアなどの時間を調べたいとしましょう。
パリはワールドタイム上の位置で、8時の位置でした。
0時の位置である東京から、地球の裏側である6時の位置まで、6目盛を移動します。
それから2目盛だけ位置を進めてみましょう。8時の位置に来ましたね。
8時の位置は、時間の輪では今日の午前2時です。
そのほか、ハワイは昨日の午後3時、ロンドンは今日の午前1時、モスクワは今日の午前4時とわかります。


ここでサマータイムについて確認しましょう。
サマータイムはアメリカやヨーロッパ諸国、ロシア、オーストラリアなどで使われている夏時間です。
サマータイムが始まると、時計の針を1時間進め、サマータイムが終わると時計の針を1時間遅らせます。

サマータイムは国によって異なりますが、4月から10月まではサマータイムの期間です。
主な国々ではサマータイムは日曜日に始まり、日曜日に終わります。
アメリカは4月の第1日曜日、イギリスやフランスなどのヨーロッパ諸国はアメリカより1週間早い3月の最終日曜日からです。
サマータイムが終わるのは、フランスやアメリカも同じ10月の最終日曜日です。(スペインのように土曜日に終わる国もあります)
オーストラリアやニュージーランドなど南半球の国々では、イギリスなどとちょうど逆になり、10月最終日曜から3月最終日曜がサマータイムです。
グアムやサイパン、ハワイはサマータイムが適用されないので、日本との時差は一年中変わりません。

みなみのせいざでは、サマータイムが適用される北半球の国々の時間について、4月から10月をサマータイムとして時差に1時間を加えます。
南半球の国については、11月から3月をサマータイムとします。

将来、日本にもサマータイムが適用されるようになると、適用のない中国、韓国、シンガポールなどの国々との時差から1時間を引くことになるでしょう。

みなみのせいざの上級問題になると、たとえば、
"みなみのせいざ、4月5日、東京の空、午後8時・・・ ニューヨークは何時ですか?"
という問題が出る場合があります。
みなみのせいざの上級では、普通のアナログ式腕時計の文字盤以外を見ることができません。
4月5日が第1日曜日以降かどうかの判断は、"七段"などの曜日当て方法を使って、頭の中で行うことになります。


さて、準決勝のルールを説明しましょう。
中級では、太陽の位置は3月の春分点に固定します。サマータイムの適用は、オーストラリア東部など南半球のみです。
読み手は、時刻を決める先ほどのトランプのカード(1から12まで)のほかに、世界の国や都市名が書かれた"地名カード"を持っています。
その国のみなみのせいざを当てた人には、続いて現地時間を答える権利が与えられます。
星座名の正解は1点ですが、現地時間の正解は2点です。
なお、読み手の横に3名の審判がいます。時計ドーム、時間の輪、地図の輪を使って正解を出し、読み手に伝えます。
そのうち1名は教室の右側に観客と読み手にだけ見えるように置かれた、3つの輪の大きなパネルの前に立っています。

初級では4組の試合を同時に行いましたが、中級では現地時間を口頭で答えるため、1試合ずつ行います。
それでは、みなみのせいざ、準決勝第1試合を始めてください」

「みなみのせいざ、3月の空、午後4時」

読み手がいうと、対戦する2人が時計ドームの2時の位置を押さえる。
審判団がそのパネルを操作して、読み手と観客に正解を伝える。
「おうし座です」
読み手が"地名カード"を1枚引く。
「ニューヨークの空は?」カードは審判団に渡される。
対戦する2人が時計ドームの7時の位置を押さえる。
「てんびん座です。ニューヨークの時間は?」
「今日の午前2時です」てんびん座を早く押さえた生徒に答える権利が与えられた。
審判団が正解であることを読み手に伝える。
これは読み手の机の上に置かれた、○と×の絵の、○を指で押さえる方法で行った。
「正解です」読み手が言うと、教室の左側のボードに、得点板の担当者が3対1と書いた。

読み手がカードを引く。「みなみのせいざ、3月の空、午前4時」

2人が時計ドームを押さえる。
「さそり座です」地名カードを引く。「パリの空は?」
2人が時計ドームを押さえる。
「かに座です。パリの時間は?」
かに座を早く押さえた人が答える。「今日の午後8時です」
審判団の一人が、×を指差す。
「ちがいます」読み手がいうと、続いて審判団の一人が答える。
「パリの時間は、昨日の午後8時です」
左側のボードには、3対3と書かれた。

「みなみのせいざ、3月の空、午後2時」
「おひつじ座です」
「シドニーの空は?」
「おうし座です。シドニーの時間は?」
おうし座を早く押さえた人が答える。「今日の午後4時です(サマータイム適用)」
「正解です」
左側のボードには、4対6と書かれた。

………

「決勝戦は、平和台高校のヒロミさん、レイナさんの二人の対戦ときまりました」

「さて、決勝戦に進む前に、時計ドーム、時間の輪、地図の輪について、もっとはっきりしたイメージを持っておきましょう。
時計ドームについては、ホームから左回りにイメージをしました。
つぎは時間の輪をイメージしてみましょう。

■時間の輪について(その2)

太陽を春分点の位置に固定して考えます。
太陽が春分点にあるということは、時計ドームのホーム方向を見上げたときに、天の赤道を太陽の通り道である黄道が左上に突き抜けるように交差する点上に太陽があるということです。
この太陽の通り道である黄道に寄り添うように、月の通り道である白道(はくどう)があります。
地球から見ると、1年をかけて太陽が黄道を1周する間に、月は白道を約12週することになります。

ホームから左の方に白道が黄道に沿ってどんどん高くなっていきます。
冬の星座があるライト方向で、白道も一番高くなっています。
ホームに太陽があるとき、ライトに月があると、その形は上弦の月ですね。
ライトから左に下がって、もしセンターに月があったら、その形は満月です。
センターから天の赤道よりさらに下がって、レフトに月があったら、その形は下弦の月ですね。
時間の輪を時計ドームに重ねた状況と一致していることを確認してください。

冬の満月は空高く昇り、夏の満月は低いといいますが、その理由も白道の位置に関係しています。
冬の太陽はレフト方向に低く位置しています。
満月はそのときライト方向へ白道が高く昇った位置にあります。
そのため満月は、天頂付近まで空高く昇ってしまうのですね。
夏の太陽は、そのライト方向に高く位置しています。
そのとき満月は、レフト方向の白道が低く下がった位置にあるため、とても低いのですね。

地軸の23.4度の傾きと地球の公転によって春夏秋冬の季節変化が生じることについても確認しましょう。
地球が太陽のまわりを回る公転軌道を水平に見ると、地球は23.4度傾いています。
太陽を時計ドームの中心に置いてみましょう。地球の通り道である公転軌道は、黄道と同じくライト方向で高くなり、レフト方向で低くなっています。
時計ドームは、北極星の方角が上ですからね。
公転軌道面に垂直な公転軸は、地球の地軸(自転軸)である北極星の方向を0度としたとき、23.4度傾いています。
北極星を上にみて、地球が太陽より低いレフトにあるとき、北半球から見た太陽の方が高い正面にあるため暑くなり夏となります。地球から見ると、太陽はライト方向にありますね。
北極星を上にみて、地球が太陽より高いライトにあるとき、南半球から見た太陽の方が高い正面にあるため暑くなり夏となります。それは北半球の冬、地球から見ると、太陽はレフト方向にありますね。
北極星を上にみて、地球が太陽と同じ高さのホームやセンターにあるとき、季節は春や秋となります。
北半球の夏至の日には、南半球は冬至の日、北半球の冬至の日は、南半球の夏至の日ですね。

■地図の輪について

春分点にある太陽が、日本の正面に来る時を基準として、時計ドームと地図の輪の関係もここでまとめましょう。
日本はホーム方向の太陽を正面に見ています。時間は正午です。
東の方向つまり左へ太平洋をライト方向へ見ていくと、太陽の光がしだいに弱くなって、ワールドタイム上の位置では2時半の位置にあるハワイに来ると夕方の5時。日本では南の空高く昇っている太陽が西の空に沈もうとしています。
その日付は、日本の前日です。ハワイはいま日付変更を示す三角マークが向かい合う位置にあるからです。
ハワイの5時の夕日は、日本から見ると翌日の正午の太陽と同じものですね。

ライト方向から夜になって星座が見えてきます。
地図の輪で3時半の位置のサンフランシスコなどアメリカ西海岸は午後7時です。
かに座の下、ロッキー山脈を越えて、一気にしし座を正面に見る5時の位置ニューヨークまで来ると午後10時です。
さらに左へ見ていくと、センターにあるおとめ座のスピカを天頂付近に見るのは、日本から見て地球の裏側に当たるブラジルのリオデジャネイロなどで、午前0時です。

センターからレフト方向へ大西洋上にてんびん座を見ながら進むと、イギリス、フランスなどヨーロッパ諸国の空にさそり座があります。午前3時から4時です。

レフトのいて座を正面に見るはずのアラブ諸国やモスクワは、もう朝の6時。日本の正午の太陽が、東の空に見えています。
10時の位置にあるパキスタンは午前8時。8時30分になっているインドはワールドタイム上の位置では10時15分の位置ですが、もうレフトからホームにかけては太陽の光のために星座は見えません。

もし黄道と白道が交差する点上を太陽と月が同時に通過する"日食"が起きて太陽の光がさえぎられるようなことがあると、インドの南の空、そして日本の西の空には夏の大三角形が見えることでしょう。

太陽を春分点に固定したまま地図の輪を回して見ます。
たとえば日本の南の空がかに座を向いたとき、右側の西の空の方向には、おうし座、ふたご座があり、東側の東の空の方向には、しし座、おとめ座があります。
このとき、ニューヨークの南の空にある星座は?現地時間は?
これを当てるのが、先ほどのみなみのせいざ中級でした。
なお、地図の輪を動かしたときに、都市名が2つの星座の間に来る場合があります。
そのときはどちらの星座名を答えても正解となります。みなみのせいざは、南の空にある星座という意味で、正確な南中時間を示してはいません。

上級では、春分点にあった太陽が、移動します。
太陽がどこにあっても、太陽が正面に来たときが正午と決まっているのですね。
太陽の位置が決まれば、ワールドタイム上でそれぞれの位置にある世界の時間が決まり、白道上のどこかにある月の形も決まりますね」


「さて、いよいよ決勝戦、上級レベルです。
中級で春分点に固定された太陽は、上級では固定されません。
この太陽と月の絵がついた時間の輪が、動くことになります。
さらにワールドタイム上の位置を示す地図の輪も回転します。
4月から10月については、サマータイムに注意が必要ですね。
さらに月や星座が見える方角やその星座名を答える問題も出されます。読み手に新しく渡される星座カードです。
空にある星座や星の名前を聞かれたら、3つまで答えることができます。これで3点になります。

なお、みなみのせいざでは、実際には星座を見ることができない昼でも、見えるものとして星座を当てます。
日食が起きるような特別な状況でもない限り、太陽が空にある間は、実際には星座を見ることはできませんね。
見えなくても、確かにその空の向こうにあれば、みなみのせいざでは正解とします。


上級では、時計ドームを使いません。
プレーヤーは1人ずつ、自分の腕時計を見て解答しながら、制限時間内に何問正解できるかを競います。
その腕時計は、あらかじめ審判団の承認を得たもので、特別な機能がついていない、普通のアナログ式腕時計です。
読み手は、プレーヤーが選ぶことができます。
上級のプレーヤーは、試合の数日前から、読み手として選んだ友達と一緒に、制限時間である30秒以内により多くの正解ができるように練習するのです。
読み手は3種類のカード、トランプ(月日と時間)、地名カード、星座カードを引きながら問題を出します。
引いたカードは確認のため、すべて審判団に渡します。


それではみなみのせいざ、決勝をはじめます」

読み手とプレーヤーの二人が正面に向かい合って座る。
読み手の前には机があり、少し離れた位置にある椅子にプレーヤーが座る。
読み手の机の上には3種類のカードがある。
プレーヤーは腕時計に指を当て、解答の準備をしている。

ストップウォッチを持った審判が、スタートの合図を送る。
「用意・・・始め」

「みなみのせいざ。12月の空。午後2時」 読み手がいう。
「やぎ座」 プレーヤーが答える。

「ニューヨークの空は?」
「えーっと・・・ふたご座」

「ニューヨークの時間は?」
「今日の午前0時」

「ニューヨークの東の空に見える星座は?」
「かに、しし、こじし座」


「みなみのせいざ。5月の空。午前2時」
「いて座」

「モスクワの空は?」
「おとめ座」

「モスクワの時間は?」
「昨日の午後9時(サマータイム適用)」

「上弦の月です。モスクワからは見えますか?」
「西の空に見えます」


「みなみのせいざ。8月の空。午後6時」
「さそり座」

「ハワイの空は?」
「みずがめ座」

「ハワイの時間は?」
「昨日の午後11時」

「ハワイの西の空に見える星は?」
「ベガ、デネブ、アルタイル」

………

「審判の判定が出ました。
先攻のヒロミさん、16問正解。
後攻のレイナさん、14問正解。
優勝はヒロミさんです」

「みなみのせいざの大会は、今回が第1回です。
ルールも出来たばかりで、改善の余地もたくさんあると思います。
皆様からのご指導をいただければと思います。

なお、明日の教材まつりの最後に、星座のうたを発表したいと思います。
平和台小学校の子供たちも、たくさん練習してくれました。
どうぞよろしくお願いします。

これで、みなみのせいざの教材講義を終わります」


<第11話 終>

【関連資料】 星座のうた(歌詞 楽譜)