<第12話> 講義のまえに 〜正しい講義と楽しい講義〜

私は平和台教材クラブ副会長の佐藤と申します。

速見さんによる正七角形の作図についての講義の前に、お時間をいただきまして、主催者側よりみなさんにお願いをしたいと思います。

特に、小学生、中学生、高校生の方はよく聞いてください。


今年の教材まつりのテーマ"ギリシアの三大作図問題"について、平和台高校で数学ご担当の野中先生に監修をお願いしました。

先生がご心配されたことがあります。

それは、数学上で不可能とされた問題が、教材作家の講義で可能となった、解決されたなどと生徒たちが誤解したら大変だということでした。


それについては、特に生徒のみなさんにはっきり申し上げます。

学校の先生が言っていることと、教材作家が言っていることは違うぞ?

そう思ったら、迷いはいりません。当然ですが、学校の先生が言っていることの方が正しいのです。


教材作家は、数学上の問題を解決しません。解決できないのです。

教材作家にとって教材とは、数学上の理論に対する作者の理解の仕方を、教材という一つの形にしただけなのです。

ですから、学問上の理論を超えることはないのです。


生徒のみなさんに対する教材作家の役割は、学ぶことは面白い、楽しいと思ってもらうことです。

面白い気持ちが大きくなると、なぜだろうという問いかけの気持ちも大きくなり、先生に質問に行くようになる。

自分から学校の先生に質問に行くようになったら、教材作家の仕事は、そこで終わりです。


教材作家は、教材を作ってみんなに伝え、新しい使い方を考え、教材性を見出し、紹介する。

その教材は、多くの学問上の成果から恩恵を受けています。

しかし、教材は学問上の理論に新しいものを何も付け加えません。

教材は、学問上の理論に対する作者の理解の仕方を、一つの形にしただけのものに過ぎないからです。


その形が親しみやすく、多くの人々に共有されるようになれば、その教材は成功といえるでしょう。


正七角形の作図は、数学者によって機械的作図法と呼ばれる、正統な数学理論以外の方法によって可能となります。

円積問題も立方体倍積問題もそうです。

思い切っていうなら、その作図方法は数学ではないのです。


しかし教材作家は機械的作図法を、程度が低い数学、数学という名に値しない数学だとは思っていません。

数学になれなかった数学、民間数学として、機械的作図法を教材として採用し、より実用的なものをめざして改良したいと思っているのです。

学校で教えられる数学とは違うものを模索していると考えてもいいでしょう。


なぜそうするかというと、楽しいからです。

やって楽しくなければ教材作家なんてやりませんから。


教材作家の講義を聞いて、正しい講義だと思ってくれなくて結構です。

本当かな?・・・そういう問いかけの気持ちをいっぱい持ってください。

でも楽しい講義だと思ってもらいたい。それはすべての教材作家の願いです。


速見さんは、教材作家が製作したコスモ定規を、教育支援で行っている海外の小学校で使いました。

コスモ定規を使えば教材費が助かるからです。

そのとき、現地の校長先生から校章である正七角形の作図を依頼され、コスモ定規を改良して機械的作図法によりその作図に成功しました。


コスモ定規は、製作者である東京の落合クラブの勝本さんのもとで成長し、平和台クラブの教材作家によって速見さんに紹介されました。

そして速見さんのもとでさらに成長したのです。

教材が成長を続けるよい事例なので、今回の講義をお願いしました。


それでは本日の最終講義、角の三等分と七等分、正七角形の作図法。

講師は、速見さん。実演は平和台小学校の生徒たちです。

<第12話 終>